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【岩貞るみこの人道車医】なぜ増え続ける、救急車の出動要請…高齢化時代の対策は

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【医】総務省消防庁では、救急隊が現場に駆け付けたとき、「緊急性がないと判断した場合は搬送しない」ための基準作りを始めるという。すでに一部地域では搬送しない対応をとっているものの、救急隊員が患者の状態を判断するのはむずかしく、トラブルを防ぐためにも一定の基準を作ろうというものだ。

救急車の出動要請は、著しい増加傾向にある。1996年が約337万件だったのに対し、2006年は約524万件。そして2016年は約621万件と10年で約100万件ずつ増えている。出動要請が重なれば、遠い署から呼ぶことになり、当然、到着時間がかかる。雪の日で転倒する人が続出した日などは悪循環に陥り、都内であっても到着に何十分もかかることがあったほどだ。これでは、一刻を争う状態の患者にはとても対応できないのである。

軽症者は救急車で搬送せずに、自分で病院に行ってもらう。さらには、深爪で呼ぶような人(実際にいるらしい)は拒否する。搬送するか否かを事前に判断し、救急車を本当に必要な人のために使おうという取り組みである。

救急車については、有料化するべきという声も出ている。しかし、現場の救急隊員に尋ねると反対の声が多い。「お金を払うんだから来い」という横暴な人が増えたり、「金銭的な理由で呼ばない」ケースも出てくるからだ。

◆なぜ救急車の出動が増えているのか

そんななか、私が(私だけでなく全国の多くの救急救命医が)「救命救急のカリスマ」と呼ぶ東京都八王子市にある南多摩病院院長(前日本医科大学千葉北総病院救命救急センター長)の益子邦洋医師に話を聞く機会をいただいた。有料化については益子医師も懐疑的だ。

「有料無料の判断がむずかしい。入院の有無で判断してはどうかというが、急性アルコール中毒で一泊入院の人は無料になり、喘息の発作で危険な状態の人が、吸入療法ですぐに改善し帰宅する場合が有料では国民の理解は得られません。さらに有料のため119番通報をためらい、もっと重症化して万一の事態になれば社会問題にもなります」

死ぬことは防げても重症化すれば入院日数が伸びる。病院のベッドは満床になり、さらに健康保険の財源を圧迫することにもなりかねない。救命救急の現場は、我々シロウトが思いつきであれこれ言えるほど単純ではないのである。

益子医師は、「なぜ救急車の出動が増えているのか、その中身を精査する必要があります」と言う。出動増加の理由のひとつは高齢化だ。高齢者は若い世代に比べて発熱や骨折のリスクが高い。自宅や介護施設にいる高齢者が転んで骨折したり、風邪で熱を出したり、寝たきりの人の褥瘡(じょくそう:床ずれ)から感染症を起こして血圧低下が起これば、救急車を呼ぶことになる。これが頻発しているのだ。高齢化=救急車の要請の増加は、避けられない問題なのである。

では、救急車を増やせばいいのだろうか。益子医師の答えは別のところにあった。

高齢者用の「病院救急車の活用」である。

◆病院救急車とまごころNET

高齢者の場合は既往症があり、すでにかかりつけの病院がある人がほとんどだ。ならば、発熱するたびに救急車でいちから救急病院を探して運ぶのではなく、病院救急車を活用して、かかりつけ病院へ搬送してあげたほうが本人のためにも、また医療関係者にとってもよいというのである。

益子医師が院長を務める南多摩病院では、2014年12月から病院救急車を稼働させている。もちろん、病院救急車だけがんばってもこのシステムが成り立たつわけではない。いま、八王子市では市、医師会、中小の民間病院、地域包括支援センター、自治会連合会など20の機関で八王子市高齢者救急医療体制広域連絡会(八高連)を作り連携をとっている。病院救急車が高齢者をかかりつけ病院や中小の二次病院(すぐに命の危険はない患者を担当)に運ぶことで、消防署の救急隊は緊急性のある患者に対応でき、三次病院(救急病院。命の危険のある患者を担当)も受け入れ可能体制が取りやすくなるというわけだ。

このシステムをより使いやすくしているのが、ICTを活用した「まごころNET」である。高齢者が携帯するICカードのなかに、どんな既往症があり、どんな頻度でどの病院に通院しているかを入れておけば、病院救急車で駆け付けた看護師や救急救命士がすぐに把握でき、適切な病院を選び搬送することができる。高齢者施設のデイサービスに、その日初めて訪れた高齢者が倒れても、すぐに対応できるのである。

現在、南多摩病院の病院救急車の年間出動件数は200件を超えている。今は予算の関係で休日や夜は運行していないものの、今後は運行時間を伸ばして対応していきたいという。

交通事故のとき、救急隊の到着~病院への搬送時間で、生死はもちろん後遺症の程度も決まる。救急車や三次救急病院が本当に必要な救急患者に対応できるよう、ほかの市町村にも八王子市の取り組みを参考にしていただきたいと思うと同時に、私たちも、適正利用を心掛けたいものである。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。
《岩貞るみこ》

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